「ホント勘弁して欲しいッスよ! なんなんスかあいつら!」
この日何度目か分からない苛立たしげな叫びとともに、酒に焼けて燃えるような–実際燃えている–吐息が爬虫類に似た口から吹き出された。
「オレ、樹海の炎王ッスよ! 王なんスよ! 最初出くわした時には『わあドラゴンだー』とかビビってたくせに…!」
「わかります。まあ飲んでください」
相槌を打って樹海の炎王の杯に酌をするのは、巨大な南瓜型の頭部を持った怪物だ。
「『地図に映らない!』とか最初は恐れられてたのに、今じゃ平気で素通りで、たまに会ったらいきなり核熱の術式が飛んできますもん。あれ、正直シンドイです」
「お前はまだマシだよ! 術式使ってもらえるんだろ!?」
「そうだよ! 俺たちなんてせっかく奴らの背後をとっても、面倒くさそうに弓撃たれて終わりだぞ!?」
「あの『テキトーにやっといて』って指示ほど腹立つものはないですよね…!」
すでに相当酒が進んでいる、白い毛皮の猿のような魔物たちと、牛の頭部を持った魔物たちが食って掛かる。ぎゃあぎゃあと喧しいが、表情が苛立ちと恐怖に歪んでいるのは一様だ。彼らはF.O.E。世界樹の迷宮を冒険する者たちにとっては、恐怖そして死と同じ意味を持つはずの存在である。その彼らが、こうやってたまの休みに集まって場末の居酒屋で愚痴っているのは、ある冒険者ギルドに一因があった。恐怖に怯えながら一歩一歩進むはずの世界樹の迷宮を、まるで散歩感覚で通り過ぎては、その跡に累々たる魔物の山を築き上げる者たち。
「だいたいあいつら、アンタ倒して第三層に行ったんでしょ!? 何で戻って来るんスか!」
愚痴ろうにもその対象がいない今、怒りの矛先を向けられているのは、第二層の主たる炎の魔人、その人(?)だ。中間管理職の苦労からかすっかり突き出てしまった、メタボリック著しい腹を申し訳なさそうに撫でながら彼は呟く。
「いやあ…ね。昨日キマイラとも電話で話したんだ。せっかく奴らが現れなくなって清々してたのに、また正確に14日ごとに来るようになった。どういうことだと…」
彼らのように役職がついている魔物は、冒険者に倒されると14日間の特別休暇が与えられる。話題の冒険者たちはそれを知り、正確に休暇明けの彼らを狙ってくるのだ。しかも、前回会った時よりも確実に強くなって。
「6階の連中の話だと、律儀にキマイラさんとこに寄ってから、ボスの所に来るらしいですよ」
「しっかりして欲しいッスよ…貫禄見せてくださいよ…」
責められてしゅんとなる炎の魔人。
「で でも僕もがんばってるんだよ…2回くらい彼らを全滅させたし…」
「そりゃあ、アンタの空気読めない発言で奴らが混乱してくれたからッスよ。最近は全力でスルーされてるじゃないッスか」
「だいたいボス、あなた鞭に打たれて昇天するってどんだけMなんですか」
思わぬ性癖が暴露されて、場が騒然とする。狼狽してしまったことで、それが事実だと裏付けられてしまったことに気付いていないのは炎の魔人だけだ。隔離されているはずの炎の魔人の部屋で起こったことを知っているのは、冒険者たちと自分だけだと思っていたのに。
なぜそれを…。と聞きたくても聞けない炎の魔人に先んじて、飛南瓜が淡々と返した。
「奴らが話しているのを聞きました。そういえば、奴らが第三層に行きたがらない理由も話してましたよ」
思わぬ情報に、皆が身を乗り出す。それが分かれば、彼らをさっさと第三層に追いやることができるかも知れない。
「……で、その理由とは……?」
「『さみい』だ、そうです…」
「……」
沈黙が落ちる。
「……休み、終わりますね」
「うん……明日、また奴らが来るのかな…」
第二層の魔物の明日はどっちだ。
(続いてしまった)
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第二層突破記念、というかとっくに突破はしたんだけど、その後がウマーだったので思わず書いた。
たぶんまた書く。